松本市美術館で開催『つぐ minä perhonen』にアーティストのアオイヤマダが訪れました。

May 16, 2026 | casabrutus.com | photo_Nanako Ono editor_Akane Maekawa styling_Noriko Miyazaki hair & make-up_TORI 昨年に創設30周年を迎えた〈ミナ ペルホネン〉が、「つぐ」をテーマに作り上げた展覧会『つぐ minä perhonen』。〈ミナ ペルホネン〉との親交も深い松本出身のアーティストのアオイヤマダが、松本市美術館で開催中の巡回展を訪ね、会場を巡りながら〈ミ…
May 16, 2026 | casabrutus.com | photo_Nanako Ono editor_Akane Maekawa styling_Noriko Miyazaki hair & make-up_TORI
昨年に創設30周年を迎えた〈ミナ ペルホネン〉が、「つぐ」をテーマに作り上げた展覧会『つぐ minä perhonen』。〈ミナ ペルホネン〉との親交も深い松本出身のアーティストのアオイヤマダが、松本市美術館で開催中の巡回展を訪ね、会場を巡りながら〈ミナ ペルホネン〉のデザイナー、皆川 明へもの作りに対する思いを聞きました。
昨年末から今年2月まで開催された世田谷美術館での展覧会を皮切りに、日本各地を巡回する『つぐ minä perhonen』展。その第二の開催地となったのは、デザイナーの皆川 明にとっても馴染みが深い地であり、〈ミナ ペルホネン〉が店舗のひとつを構える松本。現在開催中の展覧会は、松本市美術館という新たな箱に合わせたテキスタイルによるプロローグで物語がはじまっている。
〈ミナ ペルホネン〉の服作りは、テキスタイルをデザインすることから動き出すという。それは、皆川 明が1995年にブランドを創設してからずっと貫き通してきたスタイルだ。30年間で生み出されたテキスタイルの図案は1,000種以上。会場への第一歩は、そのブランドの象徴ともいえるテキスタイルのボードが空間いっぱいに広がる「chorus(コーラス)」と名付けられた部屋からスタートする。
皆川 明(以下皆川) 「最初の部屋となる「chorus」のパートでは、ひとつのデザインから、また新しいデザインが生まれていくということを表現しています。たとえば、僕らのアイコニックな柄である《tambourine》。大きさ5cmぐらいの円で構成される柄なのですが、そのサイズと同じような繰り返しの柄が生まれたり、立体的なパーツが加わったり、サイズ感を変形させたり、異なるテクニックを使ったりと、響きあうように派生し、さまざまなテキスタイルが生まれています。デザインがワンシーズンで終わるのではなく、少しずつ変化し受け継がれていく様を観ていただければと思って」
アオイヤマダ(以下アオイ) 「会場に入った瞬間から、“かわいい”という感情に圧倒されてしまいました。普段は洋服や何か他のアイテムになっているもので触れているので、改めて1枚の布から〈ミナ ペルホネン〉の服ははじまっているのだと。とても新鮮な気持ちになりました。テキスタイルの製作は、どのように進めているのですか?」
皆川 「まずは作りたいデザインを工場の人たちに伝えることから。 工場の人たちも最初は作ったことがないから想像がつかないことも多くて。たとえば、《sleeping flower》というテキスタイル。これは、二重織の迷彩柄のテキスタイルに白い花柄をその間に忍び込ませていて、迷彩部分をカットすると中に花が現れる構造になっているのですが、最初に話したときは「見えないところに花の柄があるってどういうことですか?」みたいなこともあったり。工場の人たちとは何度も話し合い、機械の制限があっても常に解決しないと決めつけず、新しい可能性を見つけていくように取り組んでいます」
アオイ 「私もパフォーマンスでこういうことをやりたいという自分のアイデアがあっても、そんな無茶なことを言っていいのだろうかと考えてしまうことも多くて。でも、伝えてみることで、作り手の方々もじゃあやってみようと燃えることもあるので、皆川さんと工場の人たちの関係にもそういう部分があるのだろうなと共感しました」
皆川 「できないと思っていたことができた時、工場の人たちも、とても喜ばれます。嬉しいことみたいで。一緒に自分たちの可能性を作っていくことは、仕事でとても大事なことだと思っています」
続く部屋は「score(スコア)」と題したスペース。大きな空間のなかに波打つかのようにテキスタイルが展示され、〈ミナ ペルホネン〉の21の柄が生まれるプロセスやストーリーが紹介され、テキスタイルだけでなく陶器など多様な製品へと展開されるデザインも並ぶ。
アオイ 「さまざまなことからインスピレーションを受けデザインへと落とし込んでいると思うのですが、個性的な柄はどうやって生まれているのですか?」
皆川 「今、アオイさんが着ているシャツの柄は《surplus》というものですが、これはデザイナーの田中(景子)が切り絵をしていた際に出た切れ端から誕生した柄なんです。溜まって山積みになっている切れ端の無作為の形が面白いと思い、彼女にこの余った切れ端でデザインをひとつ考えてみてと渡し、田中が原画を作って出来上がったものです。僕がかつて市場で働いていたとき、魚のあらを上手に料理することの大切を感じたことがあって。本来は使うつもりのなかった余ったピースの中にも美しさがあるのでは思って。ここから、偶然を使って構成していくという面白いアイデアが生まれましたね」
アオイ 「これは2003年の作品なのですね。会場で、それぞれのテキスタイルの製作年をみて驚くのですが、どれも年代を感じさせないというか、古さとか新しさの差がないというか」
皆川 「どうしてファッションには流行があるのだろうと思うんですよね。一人一人がデザインに対峙することでよかったはずなのに、新しいもの、古いものという決めつけというか先入観がデザインの領域では大きくて。だからこそ、そうではないデザインを作ろうと思いやってきました」
アオイ 「〈ミナ ペルホネン〉では、洋服だけでなく、お皿など陶器も作っていますよね」
皆川 「生活の中にあるデザインの境界を無くしたいと思っているんです。毎日の暮らしは、ご飯を食べるときには食器を使い、その時は洋服も着ていて、そして椅子に座っています。全部のデザインが同時にあるんですよね。だから、布のために描いたものも、他の暮らしの道具に変えられたらいいなと思いデザインしています」
皆川が話すように、工場や職人との関係は〈ミナ ペルホネン〉のクリエイションにとって欠かせないものである。展覧会でも会場を構成する重要な要素として、実際に使用されている道具の展示とともに、まるでそこが工場かのような臨場感ある映像と音を通し、テキスタイルがつくられるプロセスが紹介されている。
皆川 「布は織機で織りますが、機械にかけるまでのプロセスは人の手による膨大な作業の上になりたっているんです。ひとつの柄に対し、数ミリ単位での指示書が何十カ所とあり。人の手の作業がとても重要となっています。通常であれば、機械が失敗した不良品は工場が責任をとって対価が支払われないことがよくあるのですが、僕らは糸が落ちたところなどを直し、すべて製品として使うようにしています。機械のミスを人間が直すという作業ですが、職人さんたちが熟練の技術と大きな熱量で取り組んでくれています」
〈ミナ ペルホネン〉が歩んできた30年という年月のなかで、次第にある相談が舞い込むようになったという。何年も前に購入した服が着られなくなり、でも愛着があるのでリメイクなどできないかと。展覧会を締めくくる「remix」のパートでは、そうしたデザイナーと依頼者の対話によって再構築されたピースが並んでいる。
アオイ 「実は私、世田谷美術館での展覧会に伺ったとき、この最後の「remix」の展示を観終わって号泣してしまったんです。祖母がかつて着ていた服を、私のためにサイズを直しリメイクしてくれたりしていたのを思い出して。着る人が継いでいく思いみたいなものに感動して」
皆川 「アオイさんのおばあさんや自分の親ぐらいの世代は、そうやって服を大切に着ていましたよね。このプロジェクトは、人の思い出を活かしながら形を作っていくので、僕らにとってもとても意味深いものになっています。着た人の記憶をどうやって服にもう一回入れ込むのか、依頼者とお会いして話を聞いたりして。ゼロからの服作りとは全くちがう思考になります。製作には量産するものの何十倍もの時間がかかり、1年に限られた数しかできないかもしれませんが、これからも続けていこうと思っているプロジェクトです」
松本市美術館での展覧会期間中には、〈ミナ ペルホネン〉松本店より徒歩約5分の場所にポップアップショップ「minä perhonen nomad」も展開中だ。コレクションルックのほか、展覧会を記念した服やアイテムなどが揃う。
『つぐ minä perhonen』
〈ミナ ペルホネン〉のもの作りのあり方を「つぐ」という言葉が持つ多様な意味を通じて紹介する巡回展。松本市美術館にて6月7日まで開催。5月17日(日)には展覧会場を舞台に、アオイヤマダによるパフォーマンスを開催予定。今後、熊本、富山、栃木、静岡へと巡回予定。●〈松本市美術館〉長野県松本市中央4-2-22 TEL 0263 39 7400。9時~17時。入場は16時30分まで。月曜休。観覧料1,600円。
アオイヤマダ
2000年生まれ、長野県松本市出身。ダンサー、俳優。EXPO 2025大阪・関西万博の閉会式では、高村月とのユニット〈アオイツキ〉としてパフォーマンスを行う。10代の頃より〈ミナ ペルホネン〉のルックブックやキャンペーンフォトなどでモデルを務め、イベントなどでもパフォーマンスを披露。上映中の映画『炎上』に出演。